今回は夏山登山靴についてお話ししようと思います。
夏用登山靴の話でよくある論争のひとつ「ローカット」VS「ハイカット」の話題。自分はSNS上の論争については大抵スルーしていますが、夏用の登山靴についてそれなりの持論を持っているので「どんな靴がなぜいいのか。どういう風に選ぶべきか」なんて話をしてみようと思います。
登山において「靴」というのはとても大事な道具です。大地と自分をつなぐ要(かなめ)の道具です。自分にぴったりのお気に入りシューズを見つけたら幸せですよね。
登山靴のローカット・ミドルカット・ハイカットって何?
今回はローカット、ハイカットどっちがいいん?を中心に夏山(主に無雪期)での登山での靴の選び方や考え方についてお話ししたいと思います。
「ローカット」や「ハイカット」って何ぞや?って人のために少しご説明します。靴の足首当たりの長さによって靴のタイプが分かれます。
以下の画像を見てください。スニーカーのような見た目のものがローカット、ブーツのようになっているものはハイカット、またその中間くらいのものがミドルカット、という感じで分類されています。
他にもいくつか登山靴の分類の話をしておくと、ソールの硬さや防水かどうか、外皮の素材とか、靴の軽さとかそんなところでしょうか。
ではそのように色々なタイプの登山靴がある中で、どうやって選んでいけばよいでしょうか?
行く場所、やりたい登山に合わせて靴を選ぶ
さて、ではなぜ色々な靴のタイプが存在するのでしょうか。
道具というのはやりたいことの内容に合わせて、それが「快適」になるような手助けをするものです。
それぞれの靴にはそれぞれのコンセプトがあり、使用用途が想定して設計されています。
なのでどの靴にも向き不向きなシチュエーションがありますし、もちろんオールラウンダー的な製品もあります。オールラウンダーなモデルは場合によっては器用貧乏(中途半端で何をするにも使いにくい)ということもあり得ます。しかし、実際山というのはいろんなシチュエーションが出てくるわけで。
そんなわけで、そもそもどの靴がいいとか、どんなタイプが山では絶対良い、みたいなのはありません。
また行く場所やどんな山か、というだけでなく履く人の歩くスタイルや荷物の重さによってもどの靴を選べば最適かという答えは変わってきます。
なので私から言わせればどのタイプの道具がいいかなどという論争は不毛。それぞれの正解をそれぞれが見つけていく。それが山での道具選びなのです。おそらくみんなわかっているのだと思いますが、人に意見を押し付けたい人が多いのかもしれません。
それぞれの正解を見つけるのが道具選び
北アの穂高の岩稜をスニーカーを履いている人がいたらどう思いますか?危険な奴だ、とか非常識だ、とかそんなことを考えますか?私はそうは思いません。
その人がそれが一番快適で安全に歩けると考えているのであればそれは間違いと言うことはできませんし、むしろ靴に頼らなくても安定した歩きができる達人なのかもしれません。
一般論やショップ店員に言われたことを真に受けるだけで、誰かのやり方を否定するのはナンセンスです。
世間一般で言われている「良い装備」と異なるから間違っていると一概に考えるのは、そう感じてしまう人のほうが浅はか(何も考えずに道具を選んでいるステレオタイプ)かもしれません。
何も知らない初心者がその答えに至っている場合は少々心配ですが、相手のことをよく知らずに苦言を呈するのは何においても良くないですよね。
考えを押し付けるような議論はやめて相手の考えを尊重するということが大事だと思います。
それでもやっぱり失敗したくない!初めてだからわからない、って人のために「一般的にはこういう場合にこういう道具を使うよ」というセオリーがあります。
というわけで「ローカット、ハイカット論争に終止符を打つ!」というのは「好きなもん選びなさいよ」って話で終止符です。
ちなみに何も考えてない無謀な人もいるとは思います。それはまた別の話です。無知な人は、無知で無謀で危険な人にならないように、先人にならいましょう。そうでなければそれぞれの考えを尊重したいですね。
失敗しながら自分にとってのベストアンサーを見つけるのが道具選び
夏山登山で靴選びを間違えたからって命にかかわるような失態になることは少ないです。
もちろん間違えれば快適じゃないかもしれません。足に負担がかかって靴擦れとか歩きにくさがあるかもしれません。
失敗しながら自分にとってのベストアンサーを見つけるものです。ネットの誰かの「これこそ正解だ!」など信じる必要はないし、それなりの経験を積んで自分の相棒を見つけることこそ装備選びの楽しみではないでしょうか。
またそういう失敗したりして経験を得て自分に合った道具を見つけるノウハウを学ぶためにも大切な過程です。
そうして良いもの、自分に合うものを見つけたうえで、例えば大きめの計画に向けてよい道具を選んでいき、最も快適な装備で本番に挑むとよいのではないでしょうか。
てなわけで、ようやくですが靴の話をしようと思います。
私がどんな靴を夏山で履いているのか、経験と一般論を交えながら特に「ローカット」と「ハイカット」に焦点を当ててお話ししたいと思います。私が使っている靴や使ってきてよかった靴なんかも紹介します。
夏用登山靴。どんな靴が何がおすすめなの?
結論から言うと私のおすすめはミドルカットでソール自体にはクッション性があり、かつ「つま先」で立ちこんでもソールがしなりすぎない硬さのある靴、がおすすめかなと思います。加えてスリーシーズンブーツでない靴であること。なんじゃそりゃ?
一つ一つの要素について少しお話しします。
ミドルカット
靴のカットの長さでミドルカットをお勧めする理由は雑に歩いても足首から砂やゴミが靴の中に入りにくいこと。
ハイカットに比べて足首の稼働が良いので、軽快に歩いても気にならないこと。またハイカットのモデルに比べて足首周りも比較的柔らかい設計で日本の山の一般道の縦走やロングトレイルに向いています。
ローカットに比べると足首のサポートがされているので、悪い足場でも程よいサポートになります。
また夏であれば荷物も大して重くならないので、歩きやすさ重視です。
ソール自体のクッション性
靴の硬さやクッション性というのは足への負担や疲労度に大きく関係します。靴のシャンクの硬さやソールの硬さが程よく、足への負担を軽減するものが良いです。土の上を歩いたり、時にはゴロゴロの岩場や岩稜を歩いたり、といった多様な山道に適しています。
「つま先」で立ちソールがしなりすぎない硬さ
日本の北アルプスでは時には平坦な道、時には梯子や傾斜が強めで手足を使う岩場だったり、等いろいろな場面があります。
「つま先」や「土踏まずよりつま先よりの面」で立った時に靴底がぐにゃっと曲がって力が逃げるような靴は少し柔らかすぎます。少し硬くてしっかり体重を支えてくれる靴だと、フラットフィッティングで歩けないような傾斜のある場面で、より快適に歩けます。
また、このように程よい靴の硬さであれば足裏の疲れを軽減できます。
初心者におすすめなのは?
初心者用の靴、慣れた人用の靴、といった買い替えは基本的に不要だと自分は思っていますが、あえて初心者に靴を進めるならミドルカットでソフトなタイプを進めます。
まずミドルカットを進める理由は初心者は歩き方が雑だったり適当(慣れていないので)なので、足元の補助があるほうが良いかなと思います。雑な歩きで足首から靴の中に砂が入ることが多いです。なので少し足首に高さのあるモデルが良いと思います。
一方で、ハイカットの靴は足首がの高さがあるだけでなく少し靴全体の剛性が高くなる(硬くなる)ものが多いので、登山靴で歩くことに慣れていないと、普通に歩き辛いと思います。荷物が重くなければハイカットの恩恵もあまりありませんし、靴自体も思いです。
硬さについては適度にソフトだと歩きやすいです。硬すぎると慣れていないと変にスリップしたり足裏に負担がかかったりします。
ハイカットはどんな人におすすめ?
例えば荷物が30kgを超えるような荷物を担いで、日本アルプスを縦走するような登山を好む人であればサポート力の高いハイカットブーツ(スリーシーズンブーツでないモデル)がいいでしょう。
また、自重の重い人。例えば80kgもある人だと荷物と併せて90kgくらいの重量になります。筋力と歩き方できちんとカバーできる人であれば靴のサポートは必要ありませんが、そうでなければハイカットの剛性高めの靴で少しサポートするほうが良いかもしれません。
硬い靴は夏山の場合は基本的には歩きの補助力が高い道具といった位置付けになります。
もちろん荷物が重くても丁寧に歩ければハイカットじゃなくても特に問題はありません。
おすすめのミドルカットブーツ
色々お話しましたが、自分の脚にあってないと靴擦れするのでいろいろショップで登山靴を履いてみて、その中から「このメーカーの靴が私に合う足形だ!」というのを見つけましょう。
試し履きで注意したほうが良いのは、普通に歩くだけでなく、色んな方向に足を動かしてみて、アタリが無いか。特に小指、踵など。そして、つま先部分を使って段差を歩いた時、靴がしなりすぎないか(好みの硬さか)、等を試してみましょう。
実際に店頭で履いて歩いても山で歩くと違った動きがあって、それでアタリが出る、なんてことはよくあることです。出来るだけ自分の山での歩き方をしてアタリや不快な個所が無いか確認しましょう。
ミドルカットでおすすめな定番商品をいくつか貼っておきますので検討してみてください。
この中だとコロンビアのモデルが一番柔らかいと思いますが、自分は昔履いていて結構お気に入りでした。途中ハイカットの硬いブーツやら何やら履いたけどやっぱり戻ってきました。そして最後はクライミングにもっていって靴の履き替えで谷底に落としてしまったのでした(ごめんなさい)…
最近私が履いている靴、選んでいる理由について
ちなみに私は夏山登山ではアプローチシューズを使っています。理由は単に歩きやすいから。
アプローチシューズってなんぞや?という人のために、アプローチシューズとはクライマーが岩場を登攀するために、岩場までのアプローチ(行くまでの道のり)で使う靴のことです。
岩場までのアプローチは一般登山道だったり、一般登山道から外れて中を道なき道を歩いたり、岩場だったりガレ場だったりと、多様です。
特徴はざっと以下の通りです。
小さくて軽い
登攀中にザックに入れて登ることが想定されている。(登攀はクライミングシューズを用いるため)
岩場に強い
クライミング対象の岩場へのアプローチに使われるのでアプローチ程度の岩場をこなせるように作られています。クライミングってほどじゃないけどちょっといやらしい岩場なんかがあったり。先端が程よく硬く、細くなっていてクライミングシューズに履き替えずともある程度の岩場(履き手の技量次第ですが)をある程度歩けたりします。
グリップが良い
基本的に岩場をアプローチすることが想定されているので、岩へのグリップは良いソールが使われています。
底面が固い
岩場を歩くことが想定されているので適度に硬いです。
ローカットのモデルが多い
足首の可動域が広く、軽快に歩きやすいです。ミドルカットのモデルもものによってはあります。
防水のモデルが少ない
アプローチシューズ自体がヨーロッパアルプスの夏などの登攀のアプローチ使われるものが多いです。そもそも雨が降りにくい気候のなかでのアプローチ想定で防水モデルは意外と少ないです。日本の山は雨が多いので登山で使う際はそのあたりはしっかり選ぶ必要があります。
普通に登山をしているときはこんなシューズがあることを私は知らなかったのですが、クライミングをするようになって実際に山で登る時に仲間が使っていたりするのを見て知りました。
使ってみるととても歩きやすくて、今では夏とかの無雪期の登山はほぼこれです。
どんなアプローチシューズが実際にあるかは後述します。
アプローチシューズはどんな人におすすめ?
ある程度、山を歩き慣れた人にはアプローチシューズを進めます。
足腰に負担のかからない丁寧な歩き、自然と足音がしない歩き方になります。
静荷重で安定した重心移動を伴っての歩きです。筋力で体を持ち上げるだけでなく、重心移動を活用した省エネ歩きで体力も温存でき、ペースが上がっても歩き方は変わりませんし、ケガなども起こりにくい歩き方です。
歩きなれた人ほどアプローチシューズが歩きやすいと感じるはずです。
どたどたバタバタとエネルギーの高い歩き方をしている人な色々なところに負荷がかかるので、靴でのサポートにが必要になります。
加えて山に慣れてくるとある程度荷物も軽量化できてくるので、夏山でも相当長期でなければ荷物が20㎏を超えるようなことはないなずです。
なのでローカットのアプローチシューズでも問題なく、また砂利の侵入などに関しても丁寧に歩いていれば気になりません。砂が邪魔くさいときは最初からショートゲイターを付けちゃうこともあります。
海外のガイドが履いていたスカルパのアプローチシューズがめちゃくちゃ歩きやすそうで、かっこよかったから探しているのですが、見つかりません…。
アプローチシューズってどんなものがあるの?
アプローチシューズについてお話したので少しご紹介します。アプローチシューズにもタイプがあります。一口にクライミングのアプローチと言ってもシチュエーションは様々です。
具体的には山でのアプローチを想定したモデルとスポーツクライミングのゲレンデ(クライミングの岩場において整備されたもので、比較的歩行距離が短いもの)のアプローチや快適さを想定したモデルです。
登山で使う場合は、山のアプローチを想定したモデルを選んだ方が良いでしょう。ゲレンデアプローチタイプだと、靴底が柔らかく長時間の歩きには向かないものもあり、選ぶ際は注意したほうが良いです。
トレランシューズについて
私はトレランをしませんが、トレランシューズを使うこともあります。岩場の少ない一般道であれば、しなやかで軽量なトレランシューズは非常に歩きやすいです。
雑に歩けるような整備された登山道でチャカチャカハイペースで歩くときなんかはベストチョイスです。
ただ防水が微妙だったり、軽量化のため物理的な耐久性が低め(スレなどに弱い)なものも多いので注意が必要です。トレランシューズで山を歩いた時に外皮に穴が開いていたことがあります(自分で補修した)。
整備された一般登山道であればほとんど問題はありません。私が使っているのはアシックスの安いシューズですが作りも品質もしっかりして、日本人の足によく合います。その割に安価で良いです。
日常のランニングや日帰りのちょっとした歩き、沢登りのアプローチなんかでも使っています。とても履きやすいです。
夏山登山用にスリーシーズンブーツは選ばないほうがいい
持論です。反対意見のある人も、すでに使っていて受け入れられない人もいると思いますがお話しします。
登山ショップに行って特に北アルプスに行きたいみたいな話をするとハイカットのスリーシーズン対応の「重登山靴」を勧められることがあります。私も登山を始めたころにそのように進められ、スリーシーズンブーツを買いました。スリーシーズンブーツは日本の夏山登山をでは最も最悪な選択だと思います。
なぜなら日本の環境に適した設計ではないからです。
本格的なアイゼンの取り付けが可能な硬いソールで、夏でも氷河や雪渓が多く残るエリアでのアプローチやアルパインクライミング、縦走で使われる。
保温材が入っていないので夏山でも使え、おまけにアイゼン装着可能で冬も使えますよと。ハイカットで剛性も高く、日本アルプスには向いていますよ。そう行ってショップで勧められることが多いです。
持論ですが日本の夏山ではほとんどの場合スリーシーズンブーツはオーバースペック、というか無用の長物です。日本の夏山でこのような靴を必要とする場所は本当に殆どありません。日本の山には氷河や雪渓が残り、傾斜の強い場所を登るような山は一般にはほぼ存在しないからです。
もし冬山でも使えるなどと言われてこの靴を勧められたのであれば、それも間違いです。本格的に冬山をやりたいのであれば保温材の入った冬向けの設計の冬靴が必要です。このように日本にはスリーシーズンブーツで対応するべき環境は本当に殆ど全くないのです。
例えばイタリアの登山靴メーカー(スポルティバ、スカルパ等)はイタリアの人たちがアクセスしやすいヨーロッパアルプスの夏山を登りやすいように設計、開発されたのがこのスリーシーズンブーツなのです。コンセプト、想定用途を開発背景をしっかり理解したうえで物を選ぶべきです。
日本の無雪期縦走でスリーシーズンブーツを履くとどうなるか…
靴底がアイゼンに対応してカチカチに硬くクッション性が皆無なので(柔らかい靴底では本格的なアイゼンを取り付けられないため)、長距離縦走(トレイル)のようなスタイルには向きません。
私はこれで足をぶっ壊され、今でも足の形が変わったままになっています。何も知らないままスリーシーズンブーツを買わされて、我慢強い私は苦痛を我慢して履き続けた結果大変なことになりました…
このようなスリーシーズンの重登山靴は靴底以外も硬く設計されているため、靴が足に馴染むことは難しく足がダメージを受けるので、いろんな靴擦れが起こりやすくなってきます。
これは私自身の体験談でもありますが、大体登山をある程度して靴について考えていけば気付くことです。
ではなぜ登山用品店ではスリーシーズンブーツを進めるのでしょうか。理由はわかりませんが、店員さん自体もそれが正解と思っているのか、はたまたマニュアルがあるのか。
あと、チャカチャカ山をハイペースで歩く人にはスリーシーズンブーツは向きません。
チャカチャカと歩く場合、ソールのクッション性がより大事になりますのでクッション皆無なスリーシーズンブーツは足へのダメージ、場合によっては膝にダメージが蓄積するでしょう。
また、足首の動きがかなり制限されるので機敏に歩くことに適していません。
硬いソールのせいで岩へのグリップが悪く(靴底がしならないため)丁寧に歩く場合は良いですが、ハイペースで歩く場合は岩場で滑りやすくなります。
夏山におけるスリーシーズンブーツの良い所は、しいて言うなら雪を歩くことが想定されているので高い防水設計なので、雨に強いくらいですかね…
いかがだったでしょうか
少しでも靴選びの参考にしてもらえればと思います。
私はもともとハイキングから登山を始めて、登山靴はさんざん失敗をしていますし、色々な靴擦れにも悩まされてきました。特にスリーシーズンブーツにはこっぴどくやられたので恨みを持っていますが、、、どうかこれを読んでいる人は失敗しないでくれればいいなと思います。