厳冬期・木曽駒ケ岳に行くためのピッケルとアイゼンの選び方について
今回はツイッターで質問いただいた内容についてお答えしてみたいと思います。
質問の内容は厳冬期に木曽駒ケ岳に行くためのギアについての内容です。
Q質問内容
今季から冬山デビューをしたいと思い、道具を買おうと思っているが
アイゼン12本爪、ピッケルどれを選んでいいのか?
アイゼンはグリベルがいいのか、ピッケルはベンチシャフトが主流なのか。ピッケルはレイブンはどうなのか?
ゆっぴぃさん(@yuppy2000)よりご質問いただきました。
ありがとうございます。では早速お答え・お話ししてみたいと思います。
※私の個人的意見なども入っています!
アイゼンの選び方について
アイゼンに関しては目的に応じたもので、一般的(メジャーな)メーカーの規格の通った製品であれば設計に大きな差はないので、特にどれを選んでも問題はないと思いますが、靴に合うものを選ぶということが一番重要です。
靴との相性が悪ければ使うことができません。
もう少し詳しく歩き中心向けの縦走用アイゼンの選び方についてお話ししておくと、ポイントは次のような感じです。
- 爪の本数:12本以上(12本でOK)
- 装着方式:ベルト以外(ワンタッチorセミワンタッチ)
- 爪の形状:平爪
- 素材:アルミ以外(強度の問題)
まずは履いていく靴(冬靴または冬靴以外でも)を選んで、それに合うアイゼンを選んでください。
ただし、ベルト固定式アイゼンはお勧めしません。
その理由についてですが、単に靴にきっちりくっつかなくて遊びが出来てしまって力がうまく伝わらないというのもあります。また、ベルト式アイゼンを購入しようとされている場合は、おそらく夏靴などのコバのない靴への取り付けを検討していると思います。
コバのない靴はソールが柔らかく(要はアイゼン対応ではない)、アイゼンは金属なのでソールの強度が足りないので、蹴りこむときなどに力が足から靴底を通して爪に伝わりにくいので、歩きにくいです。
また、アイゼンは金属なので曲がったりしませんが、アイゼン非対応の靴のソールは曲がってしまうので、アイゼンが折れてしまったりする可能性があります。
こういった点から、本格的な用途に使えないのがベルト式アイゼンになります。
冬山を続けていきたかったり、ステップアップを考えたときにどうせ買い換えることになる可能性が高いので、個人的にはあまりお勧めしていません。が、ちょっと冬山を体験したい友人に貸すために、などという用途で持っている人はいます。
私は初めて買ったのはモンベルカジタックスのLXB-12ですが、今でもアイスクライミング以外ではほとんどこれで歩いています。
不満はとくには思い当たりませんが最近以前よりアイゼンの裏に雪がくっつきやすくなってきました。油をさしたりして対応しています。ただ、このアイゼンの裏雪だるま現象は雪質によってはどのアイゼンでも起こります。
グリベルのG12シリーズも定番でとてもいいと思いますが、やや重めのイメージでしょうか。
ペツルのバサックなどはワンタッチ・セミワンタッチを切り替えられ、良いと思います。
ペツルの製品はなかなか高価なので、出費の多い冬山道具をそろえるうえで最初は安くて一般的なものを選ぶというのも良いと思います。
とにかく靴に合うアイゼンであればよいと思いますし、同じような用途のアイゼンであれば設計に大きな差もないのでみんなが使ってる定番のものを選ぶのが一番良いと思います。
ピッケルの選び方ついて
ピッケルの選び方ですが、まずご質問いただいたシャフトの形状についてですが、木曽駒ケ岳の一般道を歩くのにはシャフトはストレートでもカーブでもどちらでも問題ないと思います。
ピッケルを選ぶときに注意すると良いことは以下の通りです。
- 長さ自分に合ったものにする(長すぎNG)
- シャフトの形状(行く場面に応じたもの、好みのもの)
- 扱いやすい重量(軽すぎないほうがいいかも?好み)
- 持った時のしっくり感など
ピッケル選びについては自分に合う長さのものを選ぶことが一番重要だと思います。
ピッケルを雪面に使うような場面は急斜面で、ピッケルを雪にさして支点として使います。
そのような場面の雪上歩行ではピッケルが雪面から離れている時間が最も不安定なタイミングになるため、できる限り素早くピッケルを抜いて手を進めて雪面に突き刺さして支点としなければなりません。
ピッケルを必要とする急斜面で長すぎるピッケルは素早い取り回がし辛く、その結果不安定な時間が長くなってしまいます。
こういった意味でもピッケル選びでは自分に合う長さをのものを選ぶことが一番重要だと思います。
身長や腕の長さ、歩き方、斜度によっても使いやすい長さは一概に言えないものですが、今まで何人か女性に進めてきましたが、以下のような感じで長さがちょうど良いようです。
165cm→45cm~50cm前後
160cm以下→50cm前後以下
ピッケルのシャフトの形状については、①T字でシャフトがストレートのもの、②T字でシャフトがカーブしているもの③ピックが強く曲がっていてシャフトもカーブしているもの等があります(下図参照)。
シャフトがカーブしているタイプのほうが急な斜面で手掛かりにしやすいメリットはありますが、木曽駒ケ岳の冬山歩きであれば差を感じるような場面はほぼないので、①T型ストレートか②T型カーブを好みで選ぶと良いと思います。
メモ
①、②のようなタイプを縦走用ピッケル、③のようなタイプを登攀向けピッケルとして考えることが多いです。
ただし、冬山では登攀ルートでも長い距離を歩きでアプローチすることも多いので③のピッケルを歩きで使う場合もありますし、逆に①ようなピッケルで登攀することもあります。そもそも昔は①の形のピッケルしかなかったし、どのピッケルがどういう条件で使える・使えない・というのは本人の技量や使い方次第でもあります。
よりテクニカルなルート(氷や岩ミックス、雪壁、雪庇を乗越すようなルート)であれば③のような、シャフトだけでなくピックも鎌のように折れ曲がったタイプが使いやすく、その場合は縦走用ピッケルとは別に用意します。
ですので、まず初期に購入した縦走用ピッケルは簡単なところで使うものとして考えて①を購入してもいいと思います。
将来的によりテクニカルなルートに行きたいという強い思いがあるのであればいっそのことテクニカルルート向けだけど縦走にも使えるような③のようなタイプを買ってしまうのもありっちゃありだと思います。
ただし、単純な滑落停止などは雪面へのピックの角度の問題で①のようなTストレートタイプのほうがやりやすいです。もちろんピックが強く曲がったタイプでも可能ですし、そちらで慣れておくのもいいかもしれません。
どれを選んだからと言って自分なりの意図や目的があって正しい使い方ができるのであれば間違いということはないと思いますし、要はそれを扱えればどれでもいいということです。
ただ逆に言えば正しい使い方を理解しておらず持っているだけならどれを持っていてもあまり効果は発揮できない(意味がないとまでは言いませんが)かもしれません。
個人的には最初は安めのT型ストレートを買っておいて、行く場所に応じて道具も買い揃えていくのがいいのかなと思います。
また、最初からベストなものを選びたい!という想いが強いのであれば道具のレンタルなどもあったと思うので一度レンタルして試してみて気に入ったタイプを購入するというやり方もありだと思います。
ちなみに私は初めてのピッケルは一縦走用でシャフトがややカーブした「クライミングテクノロジー アルパインツアー」という製品を買いました。理由は安かったのと、何となくシャフトがカーブしているほうがかっこいいし、強度もT(テクニカル)だったので長く使えそうという単純な理由でした。今でも特に不満なく訓練から一般縦走、簡単なアルパインルートまで使っています。
ちなみにピッケルの強度はB:ベーシック、T:テクニカルという指標がありますが、基本的にBでも問題ないですがTのほうが強度が強いです。ただ、強度が強い分重量も重くなることが多いです。登攀などで雪上にピッケルをアンカーとする場合などに十分な強度があるのがTになりますが、ロープを使わないような歩き中心であればBでも何の問題もありません。
今は縦走用ピッケルに関しては特に買い替えは検討していませんが、もし買い換えるならペツルのサミテック(よりピックの角度が強いテクニカルルート・縦走ルートともに使えるモデル)が欲しいなとは思っています。
いろいろ書きましたが、規格を通った製品(一般に売られているものであればほぼ問題なし)であればメーカーも好みのものでいいと思います。
何度も言いますが長さには注意してください。
たまにめちゃくちゃ安いおもちゃのようなピッケルを買ってくる人がいるので、そういうのはやめたほうがいいかとは思いますが…。
ご質問にあったブラックダイヤモンドのレイブンは少し軽めですが、選択肢としては全く問題ないと思います。
山でよく見る信頼性の高い製品を以下にリンクしておきますので、選択肢に入れてみてはいかがでしょうか(モンベルはリンクが張れないですが良いと思います)。
厳冬期の木曽駒ケ岳登山に備えて他に購入したほうがよさそうなもの
冬の木曽駒ケ岳や山の稜線を歩く場合は風に対する対策が必須です。特に木曽駒ケ岳の場合はロープウェイで上がった時点で樹林帯を抜けているので、天候によっては風の影響を受け続けるコンディションもあります。
風に対する装備としてバラクラバ、サングラスまたはゴーグルなどを持っていきましょう。
バラクラバをつけるとサングラスが曇って凍り付いて前が見えなくなることもあります。実はピッケルやアイゼンよりもしっくりくる製品を選ぶのは難しいかもしれません…。
私はアウトドアリサーチのゴリラバラクラバというものを使っていますが、気温が低いと吐く息が上がってきてサングラスが曇って凍ってしまいます。口周りがメッシュになっていて、曇らないように工夫はされている製品ではありますが…。
周りで使っている人で評判が良いのはファイントラックのメリノスピン バラクラバなどです。ゾウの鼻みたいな穴が口のところについていて下に向いていて、顔の上部に吐く息が上がってこないようになっています。
使ったことはないのでレビューはできませんが、評判は良いですね。
ただ、こういったものは顔のサイズや鼻の高さにもよるので、なかなか難しいです。いろいろ試したりして自分に合うものを見つけてみてください。
冬山に行くために重要なのはツールを使いこなせるということ
アイゼンにしてもピッケルにしても持っていれば山を安全に歩けるというものではありません。
扱いを理解して、練習して、体で学ぶということが重要です。
よく言う雪上歩行/ピッケル・アイゼンワークなどは体で覚えて意識せずとも自然と正しい動作ができるようになることが望ましいです。
これらは特別難しいものでもなく、大した技術でもありません。
練習すれば誰でもできる当たり前の技術です。
ではこういった技術がないと冬の木曽駒ケ岳に行けないのか、というとそういうわけではありません。
むしろ木曽駒ケ岳のように雪の豊富な場所で購入した道具の使い方を確かめたり、実践したりしてみてください。アイゼンやピッケルの扱いを上達するには学ぶことも重要ですが、慣れも重要です。
正しい使い方を理解したら、これらを装着した状態で行動する時間を増やすことです。
もちろんこのような技術を理解しないままでも木曽駒ケ岳を歩くことは難しくないと思いますが、せっかくのツールを使いこなせなければ持っているだけになってしまいますしステップアップしていくためにも必要なことです。
木曽駒ケ岳のようなカール状の地形であれば、雪の条件が合って、雪崩の危険のないタイミングであれば絶好の練習場所です。
カール地形の中で滑っても安全な場所を見つけて練習を行えます。
いかがだったでしょうか
今回は質問していただいたので回答になります。ちょっと詳しくない部分もありますが、もし加えて何かあればツイッターなどから気軽に聞いてください。