ロープワークを覚えたい!山でのロープとリスク管理についての考え方の話

世間のニーズに応えて色々回答していこうと思います(?)

最近よくご相談いただくのが「ロープワークを覚えたい」「どうすればいいですか?」というもの。(SNSのDMなどでお問い合わせいただくことがあります)
文字の多い記事ですが、後輩に指導するように真剣に書いたのでロープワークをやっていきたい人は是非読んでみてください。
少し小うるさい感じに書いていますが、自分のパートナーを育てるつもりで書きました。

やまにちは!まっつんです。ツイッターYoutubeもやってます。

重要なのはまず、なぜロープワークを覚えたいか?何がしたいのか。
ロープとはいったいどういう山行で使うものか?ということ。

ただ何となく「登山をやっていけば、ステップアップした先にロープワークを覚える、という段階がある」と思っていませんか?
なんとなく「ロープワーク」って言いたいだけの人になっていませんか?

それも全然悪くありません。憧れは大事だし、やってみたいという気持ちが一番です。ですが、今回はもう少し深く考えてみましょう。
ちなみに「ザイル」というのはロープのドイツ語で、どっちで呼んでもいいです。私は基本的に英語読みが好きなので「ロープ」と言います。
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ロープワークってなに?

ロープワークは「ロープを扱うやり方」のことです。山や岩を登る際にロープを出す場合がありますが、ロープをどう使うかということを知っている必要があります。
では、このロープワークはいったいどういう場所で活用するのでしょうか?

ロープが必要という意味は「確保が必要」ということ。確保、とは山では基本的に「落下しないように支える」ということになります。
墜落や滑落しないように確保するわけですね。

山での最悪の事態は墜落や滑落してしまうことです。
確保は英語で「ビレイ」と言いうので、確保する=ビレイする、と言います。どちらでもOK。
自分自身の安全確保をすることをセルフビレイ(略してセルフと呼んだり)と言ったりします。

確保する対象は人間です(時には荷物など)。
落ちれば命にかかわるような場所で文字通り命綱としてロープを使い、安全を確保します。

万が一落ちた場合に命を守る、それがロープです。つまりロープワークはリスク管理の一つのやり方です。

では山でロープ確保が必要な場所や、登山スタイルとはどんな場所なのでしょう?
どんな山でも命の危険がある、と言えばそれは間違いではありません。

自転車だってどこでコケて頭を打って死んでももおかしくないですが、すべての自転車で補助輪を付けるわけではありません。
慣れていれば転ぶことはありませんよね。

山でもロープを出すのか出さないのかと言うのは、リスク管理における判断と密接にかかわってきます。

ロープを使う意味を理解する

ネットでロープワークを調べて「この結びが使えたら大丈夫!」とか「覚えておこう」のようにロープ結びを紹介するサイトはたくさん出てきます。
物によってはアフィリエイト的にとりあえず「おすすめのロープはこれ!」みたいに適当に製品リンクが張ってあるだけのものも。
そんなサイトは見なくていいです(過激に言いますが)。

今回はまずはロープを使う意味を考えてみましょう。
ロープの結は、様々なロープが必要な場面の歴史的背景から誕生しました。

例えば船や海上で、ロープは頻繁に使われ、多くの結びのルーツはそこにあったりします。実際に今でもロープ結びの呼称の中にその由来が想像できるものもあります。
色々な結びの中から実際に山で使われるようになったもの、キャンプで使われるなったものなど、結びの歴史と種類、誕生の背景は広いです(私も詳しくは理解していませんが)。

たくさんの結びがある中で、山でのロープワークの目的である「登山者の確保」においては「本当に必要な結び」と「知ってるとまあまあ便利」なものと「山じゃまず使わない」ものがあります。
実際に山で使わない結びは「山でのロープワーク」という観点では正直覚える必要はありません。もちろん知ってると幕営やなんやかんやで便利だったりするので損はありませんが。
まずは「本当に必要な結び」だけで良いのでしっかりと理解して覚えましょう。

逆に本当に必要な結びについても、結び方を知っているだけではだめです。
例えば、エイトノット(八の字結び)。ロープの末端を自分に結ぶときや力が加わるものを確実に確保をするとき等に使います。
ではなぜエイトノットがそのような使い方に適しているのでしょうか?エイトノットを使う方がいい場面と、逆に使わないほうがいい場面、どんな場合があるでしょうか。

と言うように、まずはロープを使うこと、そしてその結びやシステムの原理となぜそれが推奨されるのかを理解しましょう。
想定される現場の状況や起こりうる事柄を想像し、その際にどういう結びが適切で、その結びを使うのはなぜか。どういう意味があるか。
また、その結びやロープの使い方を行う場合、どういったことに気を付ける必要があるか。
可能であれば同じ用途で別の(代替の)結び方を知っていると良いです。大抵は似た結び方や手法、システムがいくつかあります。

そうして、理解した結び方をどういうときに使うのか判断して使っていきます。判断するために理解は大事だと思います。

また、少し結びを知っているだけで、ロープが扱えると過信するのは危険です。現場では命に係わるものです。
謙虚に、慎重に向上心をもってやっていきましょう。もちろん私も全然まだまだ未熟だと常々感じています。

登山におけるリスク管理の能力を身に着ける。想像力を養おう!

さて、ロープを活用した登山戦略は山でのリスク管理という点で重要です。

登山のリスク管理において最も重要なことは何でしょうか?
それは「落ちちゃダメなところでは落ちない」これにつきます。
落ちちゃダメなところって何?つまり、落ちればタダじゃすまない≒命を落としたり無事で済まない怪我に繋がる可能性が高い、という意味です。

誰かの負傷は自分だけでなくパーティ全体を危険に晒します。
それは救助やその後の対応はもちろん、社会的にも…です。
(山で事故を起こせば社会的にどんな批判を受けるかは皆さんもご存じだと思います)

逆に落ちてはいけないところでさえ落ちなければ、万事OKです。しょうもないところで足を滑らせて、ハイマツに突っ込むとか。登山道で砂利で滑ってひっくり返るとか。
登山は山でたくさん歩いたり登ったりするアクティビティなので疲れてミスが出るのは当然です。重要なのはミスしてはいけないところではミスをしないように集中すること。
ここではあくまで「命」の危険(リスク)について話しています。

そのうえで「もしかしたら落ちるかも、やばい」と言う時、危険個所に突入する前に状況を判断して、安全確保をするかどうか考えなければなりません。
とりあえず突っ込んでいって、戻ることも進むことも、落ちることもできない、となることは「摘み」です。

そういったところでの安全確保でロープを出します。ロープを出す可能性のある場所は行き当たりばったりではダメなのです。
ロープを出すかどうかの判断、出してからどのように行動するべきか、万一の事態を慎重に判断する。そのうえでトライする。
このようにリスクを自分の理解の範疇で正しく判断し、行動に移すことが山での戦略と言えます。

想像力をやしなおう

山におけるリスク管理で私が一番重要だと感じるのは「想像力」です。想像は判断の結果に繋がります。

持論ですが想像できない人は何も考えていない人です。考えようとしていないだけかもしれません。そうすると想像力のある人間と同じ次元で会話できません。
どういう条件で、どんなことが考えられるか、行動する前にその先の周囲の状況などを想像することは大事です。

さらに言うとそれは計画段階からイメージできていることがより望ましいです。自分が行こうとする場所はどんなことが起こりうるか。想像します。

想像力というものは経験によって養われるものです。新しいことを初めていきなり広い視野をもって想像するのは無理です。目の前のことしか見えなくて当然なのです。
だから最初は想像できなくても大丈夫です。
山に行くうちにどんなところにどんなリスクが潜んでいるか、経験・行動・人の話や記録。
そういったものを観察したり聞いたりして柔軟に吸収することが「想像力」につながります。

常に考えながら行動することで想像力の成長はより早くなります。
行ったことのない山やルートに行くときは不安があります。情報を調べたり、状況を想像したり、まずは最悪に備えて最大の装備で、でも最低限の装備で。そして経験を積めば徐々に本当に必要なものやことが想像できる(見通せる)ようになります。

これらを想像して判断できることが「戦略を立てられる」ということです。

リスク管理は登山における戦略の一つで、ロープを使うということは手段の一つにすぎません
ロープを使いたいとか、懸垂下降ができるなんてことは些細なことです。
山をやるということに対して広く、より思慮深く、理解し・想像することが大事です。

一回一回の体験が自分の経験値を上げてくれます。しっかり考えて自分のものにしたいですね。

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ロープを使うことのデメリット

さて、まだまだ続きます。
ロープを使えればもちろん山でやれることは増えますが、ロープを使うことのデメリットについてお話ししておきます。当然のことなのですが、頭に入れておいてください。

①装備が増える。ロープ+プロテクション+ハーネス等

ロープには使い方があって、それにより太さや長さ、持っていく本数が変わったりします。
ロープ1本は大抵テントよりも重いです。ロープをザックに入れるとザックも大きくなりますし、登攀に必要な道具一式も必要になります。

②行動が遅くなる

ロープを使うには、まず準備しなければなりません。ザックを下ろしロープを取り出してほぐし、支点を作ってセットしたり、靴を履き替えたり。
登り方にもよりますが、交互に上っていくような登り方では1人ずつしか登れないので、同時に行動しているときより倍以上時間がかかります。
またロープのセットや回収、取扱などいちいち手間がかかります。

③ロープが邪魔くさい

場合によってはロープが邪魔くさいと感じることがあるります。山のルートは弱点を突いたら右往左往することも少なくありません。。屈曲してロープが重くなってしまったり。また、気を使っていてもロープがぐちゃぐちゃになってしまうことがあります。…まあそれを何とかするのも技術なのですが。

ロープを出すことによる行動速度の低下について

ロープは出せばいいというわけではありません。特にロープを出すと全体の行動スピードが落ちるということについてはよく理解しておかなければなりません。

同じルートでもロープを出すことで行動が遅くなり、またロープの扱いに慣れていないメンバーいればそれだけで全体の時間はさらに遅くなります。ピッチ数(ロープを伸ばす回数)が増えれば増えるほどそれは顕著です。

50mロープなのに20mしかロープを伸ばさなかったり(ロープの長さを体感的に把握できていない場合によく起こる)ということがあると、それだけでさらに倍ほど時間がかかる可能性もあります。

つまり、ロープを出さずにいけてしまうのであればさっさと進んじゃったほうが断然早いのです。
でもだからと言って危険のある場所でロープを出さないのは時には無謀となってしまいます。

パーティの力量把握と安全確保の判断(バランス)が大事になります。
ロープワークを覚えたり知ったりしただけでは登山において有効にロープを用いることができるようになるわけではありません。

特に明らかにロープを必要とする壁の登攀(クライミング)よりも、微妙に悪い個所の続くような岩稜や雪稜なんかで際どい場面はより顕著です。

個のクライミング技術の向上は望ましい

山での行動に慣れていてロープなしでサクサク進んでしまえるパーティと、不慣れな仲間のために安全第一でロープを出して進むパーティーと、それだけで倍以上も行動速度が変わってきます。

パーティメンバーの力量によってロープを出すことが「行動を遅らせる」ことになるか「安全第一」となるか、意味合いが変わってきます。
ロープを出さずに横着をして事故を起こすのはだめですが、ある程度の力量であればロープが不要な箇所も山には多いです。

つまり、ロープを出すのは「本当にロープが必要な場所」の最小限にとどめられるのが一番望ましいということです。

余計なところでしょっちゅうロープを出しているようであれば、そもそも個人の行動やクライミングにおける安定性を向上させることがパーティの力の底上げにつながる場合もあります。

つまりどういうことが言いたいかというと、ロープワークを覚える前に「自分の登攀(クライミング)能力を最低限つけよ」ということです。
昨今はそこら中にボルダリングジムがあり、努力さえすれば誰でも簡単にクライミング技術は向上します。山でのロープを使った登山に憧れがあるのであれば、まずは付け焼刃のロープワークを覚える前に、トレーニングをしましょう。

登山とクライミングについて

登山でロープを使うことの意味は「安全を確保する」ですが、それと同時に「クライミング要素を含むルートにトライする」という意味です。

クライミング要素のないルートでロープを出さなければ危険、といった力量であればロープワーク等覚える以前にトレーニングをするべきです。
一般道は誰でも歩けるように整備された道ですが、それ以外の道は個々の技量でその難易度やトライできる範囲は変化してきますし、自分で判断する必要も大きくなります。

ボルダリングジムがあちこちにあるので、自分のスキルを上げることは容易ですが、それが難しければガイドを雇ったりしたほうが確実です。山岳会に行って連れて行ってもらおうという、先輩をガイドのように使おうという人はあまり関心できません。自分も成長してパートナーとなっていける人は別ですが、そうでなければ相手の時間を奪うことになります。
登山ガイドは不慣れな人を安全に楽しく、いろんな場所へ案内する、それが仕事の一つです。

つまり、ロープを触りたいならまずは「クライミングのトレーニングをしよう!」ということです。

これは私の持論でもあります。
クライミングをある程度やっている人とそうでない人と、山やルートに行くと動きの違いが一目瞭然です。
クライミングを身に着けている人の動きは確実で不安定さが見受けられません。

登山で言われる3点指示、3点確保というのはクライミングの動きには当然あるもので、クライミングをトレーニングしている人であれば自然にできる動作です。
基本的に静荷重で安定した重心移動で多少悪いところもロープ確保しなくても安全に通過できる。

これがまずは山でのクライミングのためには必要なのです。

クライミングの技術を上げることで安定して歩ける範囲が広がるので、本当にロープが必要な場所に集中することができます。
また、クライミングと登山は別物ではありません。傾斜が強くなると必ずクライミングの動きが役立ちます。(ハイキング的な登山しかしないなら別物ですが)

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ロープワークは使わなければ忘れる。クライミングのトレーニングと並行して進めよう

クライミングのトレーニングをして、そこそこ安定した動きを体で体で覚えてきたら、ロープワークを覚えていきましょう。
そうすると、実際に外の岩場で登りながらロープワークを練習することができます。

ロープワークがなかなか覚えられない、と思っている人は実際に使う機会が少ないのではないでしょうか。

ロープワークにおけるシステムなどは実際に使わなければすぐに忘れてしまいます。
しかし、ロープを使うということは落ちたらダメな場所に行っているはずです。
忘れたからと言って失敗は許されません。

つまり、最初はある程度実際にロープワークを使って登ったり実地でトレーニングすることが大事です。
そうすると「こんな場面でこんな使い方が役立つ」とかそういったことが徐々に理解できるはずです。

教えてくれる人やパーティの仲間のやり方を見たり、お互いに教えあったりしてやっていきましょう

レスキューで必要になる結びとかシステムで、一般的にはほとんど使わない結びなんかはどうしても忘れてしまいますので、年に数回は必ず訓練等で思い出すようにします。

ロープを使った登山をしたいならレスキューも理解しよう

ロープワークと切り離せないのが「レスキュー(救助技術)」です。

「えーまだ覚えなきゃいけないことがあるの~」と思いますよね。私も思います…。

山でロープを使うような場所での事故の重大さは格段に大きいです。
山では色々な自然の状態が影響してきます。条件による災難だったり、登山者の判断ミスであったり、想定外の事態であったり。
実力あるパーティでも事故の可能性を減らすことはできても完全に消すことはできません。

自動車の運転で救命講習を学ぶように、ロープワークを学ぶということはレスキュー技術も身に着けて、パートナーやパーティの身の危険、また自分自身を守るための知識と技術を学ぶ必要があります。

必須科目と言えるかもしれません。
例えばセルフレスキューやリーダーレスキューと呼ばれる一般的なロープクライミング中の墜落事故の際の技術や搬送訓練など一通り訓練してやり方を知っておくことは大事です。

定期的に訓練できるのがベストですが、1度もやったことがないのと、1度でも訓練したことがあるのでは全く違います。
自分がやりたい登山が何なのか、しっかり考えて学ぶべきことを学んでいきたいですね。

パートナーとはお互い尊重し、素直に感謝しよう。それが信頼につながる

精神論か?と思われるかもしれませんがこれは意外と一番大事です。

ロープを扱うということはロープで確保してくれる相手や、確保する相手がいるわけで、普通はパートナーが必要です。

ロープやロープワークを使った行動中はミスがあってはいけません。そのミスは必ず重命に係わる重大なことになります。だからこそパートナーとは信頼しあえているほうが望ましいです。パートナーと必ず対等ではない場合もあるでしょう。例えば後輩だったり先輩だったり。

でも気になるところやダメなところ、相談して決めるべきところは素直に冷静に話し合って、パーティとしての正しい判断をするべきです。何か指摘されて腹が立つこともあるでしょうが、感情的にならずに正しい判断ができること、それが大事です。

お互いを尊敬してリスペクトする気持ちがあるほうがよりうまくいくことが多いです。

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